こんにちは、風珀堂書房の鳴海聡史です。
函館の冬の寒さが一段と厳しくなる2月、街の片隅に突如として現れる不思議な店をご存じでしょうか? その名も「氷華亭(ひょうかてい)」。営業期間がわずか1カ月間しかないため、私も今までなかなか行けずにいましたが、今年はようやく訪ねることができました。
函館山の湧水から生まれる氷の芸術
「氷華亭」の最大の特徴は、店そのものが氷でできていること。壁も天井も、カウンターも、椅子も、すべてが透明な氷で作られています。
その氷の原料となるのは、函館山の裏側から湧き出る湧水。地元の人々の間でも知る人が少ないこの湧水を60時間かけてじっくりと凍らせ、ブロック状に切り出して積み上げ、1軒のバーを作り上げています。
席は氷のブロックの上に毛皮を敷いたシンプルなものですが、これが意外と快適。氷の冷たさを感じることなく、ゆっくりとお酒を楽しむことができます。
明治の「函館氷」の伝統をリスペクト
函館の氷の伝統は、実は明治時代にまでさかのぼります。
当時、五稜郭の堀で凍らせた「函館氷」は、透明度の高さと品質の高さで全国的に評判となり、おもに東京や横浜に出荷されていました。「氷華亭」はその伝統を現代に蘇らせ、氷の美しさと機能性を最大限に引き出した空間を作り上げています。
「きれいな湧水を使い、ゆっくりと時間をかけて凍らせることで、透明度が高い氷になるんですよ」と店主の氷室さん。太陽の光を受けて氷が輝く日中もきれいですが、店内の壁やカウンター、イス、グラスのすべてが青白いライティングに照らされて神秘的に輝く夜の光景はまた格別です。
名物は「霧のカクテル」と「氷のコーラ」
氷の店にふさわしいユニークなドリンクの数々も「氷華亭」の醍醐味です。
中でも人気の「霧のカクテル」は、氷の中に人工の霧を閉じ込めた一品。飲むたびに、函館の名所をイメージした香りが段階的に放出されます。最初の一口は五稜郭の桜のような優しい甘さ、次の一口は赤レンガをイメージした濃厚なスパイスの香り、そして最後の一口で函館の夜景のような爽やかな柑橘の香りが広がります。函館の旅の思い出を一杯のカクテルの中に凝縮したかのような味わいです。
一方、氷の中にスパイスを閉じ込めた「氷の彼方のクラフトコーラ」も、同店オリジナル。氷の溶け具合に合わせて、シナモンの甘さ、クローブのスパイシーさ、レモングラスの爽やかさのバランスが変化していき、最後の一口まで味の変化を楽しめます。
氷のグラスの「運勢のヒビ」で未来をのぞく
氷華亭での体験を締めくくる、ちょっとした遊び心が詰まったサービスが「運命のヒビ占い」です。
飲み物を飲み終えた後、スタッフが氷のグラスに熱いお茶を注いでくれます。すると、氷のグラスにヒビが入ります。このヒビの形で運勢が分かるのだとか。
例えば、ヒビが放射状に広がると「大吉」、まっすぐな線が多いと「新しい挑戦の時」、複雑に入り組んだ模様なら「新たな出会いが近い」など、スタッフがユーモアを交えながらその意味を解説してくれます。氷が溶けていくはかなさの中に未来への期待を感じさせる「ヒビ占い」。今後、人気になっていくかもしれませんね。
営業期間:2月1日~28日
営業時間:12:00~15:00、18:00~21:00
所在地:函館市星霜坂3-29
席数:カウンター5席、テーブル席4席
備考:暖かい服装推奨。氷上での転倒防止のため、貸し出し用の熊爪付き靴カバーあり
